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暮らしの痕跡

2026.01.05

日々のご相談の中で、体と暮らしの関係を見つめていると、日本人の体質の変遷をふと考えます。
例えば、江戸時代の人達と比べると、現代の私たちの体は、その在り方が大きく変わってきているのではないでしょうか。
幼いころには、さほど違いはなく、その後の取り巻く環境の中で体の状態が徐々に変わり、やがて体質として現れてくるのだろうと考えられます。
遺伝子が大きく変わったわけではありません。
違いを生んでいるのは、日々の生活様式、生活環境、食事の内容、そしてそれらを支える、医療を含めたインフラです。
体質とは、こうした要素の積み重ねが形となって現れる部分が、確実に存在します。

江戸時代の人々は、日常の中で自然に体を使う生活をしていました。
移動は歩き、仕事は体を動かすことが中心で、一日の大半を座って過ごすような暮らしではありません。
体を動かすことで、体内の循環や代謝が円滑に保たれやすくなり、多少の疲れがあっても回復しやすい状態が維持されていたと考えられます。
現代のように、運動不足が原因で体調を崩すという状況は、少なかったでしょう。

冷房や暖房のない生活も、体のあり方に大きな影響を与えていたと想像できます。
暑さ寒さをそのまま受け止める暮らしは決して快適ではありませんが、その分、体温を保ち、外部環境の変化に対応する機能が日常的に使われていました。
季節の移ろいの中で体が自然と調整され、多少の寒暖差では体調を崩しにくい、いわば地力のある体が育っていたのだと思います。

食生活もまた、現代とは大きく異なります。
江戸時代の食事は質素で、腹八分が基本でした。油脂の多い料理や甘い物を日常的に口にすることはなく、食べ過ぎによる負担は今ほど大きくありません。
消化に無理のかからない食事は、体の内側を疲れさせにくく、結果として安定した体調を支えていたと考えられます。

一方で、現代人の生活は、便利さと引き換えに、体にとっては負担のかかりやすい条件が揃っています。
一日中デスクワークでほとんど体を動かさず、夜になるとどっと疲れが出る。
頭を使い続け、夜遅くまで明るい光にさらされる生活が当たり前になっています。

さらに冷暖房によって一年を通して同じような温度環境に置かれ、体本来の調整機能を使う機会が減っています。
エアコンの効いた部屋から外に出るだけで体調を崩してしまう、そんな声を聞くことも少なくありません。
その結果、疲れが抜けにくい、胃腸の調子が安定しない、眠りが浅いといった不調が、年齢に関係なく見られるようになっています。

インフラの発達は、命を守り、寿命を延ばしました。
これは疑いようのない事実です。
しかし同時に、体が本来持っている「自分で立て直す力」を使わなくなった側面もあります。
少しの無理で体調を崩し、回復に時間がかかるのは、体が弱くなったというより、使われずに眠っている機能が増えた状態と捉えることもできます。

現代には現代の良さがあります。
ただ、江戸の生活の中に自然と組み込まれていた、体を動かすこと、食べ過ぎないこと、冷やしすぎないこと、早めに休むこと、こうした要素を今の生活に少しだけ取り戻すことはできます。
それだけでも、体の状態は確実に変わっていきます。

漢方とは、漢方薬による治療だけを限定するものではありません。
体と暮らしの関係を見直し、無理のかかっている部分を整えていく考え方でもあります。
昔の体の在り方をそのまま手本にするのではなく、そこにあった知恵を、現代の生活に合う形で生かすこと。
その積み重ねこそが、今を生きる私たちの体を、本来の調子へと近づけてくれるのだと感じています。

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