12月も中旬にさしかかり、冬本番の寒さとなってきました。この時期に多く寄せられるご相談の一つが、夜間頻尿です。
「八味地黄丸を飲んでいるけれど、一向に効果を実感できない」そのようなお声を、多く耳にします。
八味地黄丸は非常に優れた方剤ですが、夜間頻尿に対しては単独では対応しきれないケースが少なくないと感じています。
効かないのには、やはりそれなりの理由があります。
加齢とともに増える夜間尿の背景には、循環器機能の衰えが関与している場合が多く見受けられます。
年齢を重ねると、心臓のポンプ機能や血管の弾力性が低下し、日中に下肢へ血液や水分が滞りやすくなります。その結果、夕方から夜間にかけて横になることで下肢に溜まっていた水分が血流へ戻り、腎臓で尿として処理されやすくなります。更に、寒さにより血管が収縮すると、体は熱を逃がさないよう働きますが、その一方で腎臓への血流が相対的に増えて尿がつくられやすくなります。また、冷えは膀胱の過敏性を高め、「尿意を我慢しにくい」「少量でも目が覚める」といった症状を助長します。そのため冬場は、夜間に何度もトイレに起きる状態が一層目立つようになります。
八味地黄丸には、体を温め、腎の働きを補い、水分代謝を整える作用があります。
この作用は夜間尿の改善に一定の効果を示しますが、循環動態にまで十分に作用しきれない場合、単一的な使用では効果を実感しにくくなるのです。
漢方には「方証相対(ほうしょうそうたい)」という言葉があります。
これは「証(体質・病態)」に対して、あらかじめ対応関係が確立された「方剤(処方)」を選択するという、漢方治療の基本的な考え方です。
薬理作用を積み上げて処方を組み立てるのではなく、全体像(証)と方剤を一対のものとして捉える思想といえます。
しかし、この考え方だけでは、方剤主体の傾向が強くなり、治療として十分とは言えない場面が生じることもあると考えています。
つまり、「証」に対して既成方剤を探し当て、それを単一的に選択するだけでは、実際の臨床では対応しきれないことが多いのです。
「証」とは病態が表に現れた兆候を手がかりに、治療の方向性を探るための指標であり、病態そのものを示す答えではありません。
近年、薬理・生理学の進展により、疾患の病態はより具体的に、より正確に解明されるようになってきました。
こうした流れの中で、明らかになりつつある病態に対し、方剤が持つ薬能を正確に読み解き、多角的に用いること。そのような姿勢が、これからの漢方に求められているように思います。
