症例①30代
ここ数か月、月経前に体調不良を感じ、日常生活に支障をきたしていた。
主な症状は、抑うつ、苛立ち、浮腫み、甘いものや高脂質食の過食である。
めまいの治療を継続中で、耳鼻科に通院しており、メリスロン錠およびアデホスコーワ顆粒を服用している。
――PMSの原因は完全には解明されていないが、排卵後に起こる女性ホルモンの変動が脳や身体に影響を与えると考えられている。
エストロゲンとプロゲステロンの分泌変動は、脳内神経伝達物質や自律神経のバランスに影響し、イライラや気分の落ち込み、むくみ、頭痛などの症状として現れる。
言い換えれば、**「女性ホルモンの変化に体が順応できず、バランスの乱れとして症状が生じる状態」**である。
子宮や血管などの平滑筋はホルモンの影響を受け、収縮・弛緩のバランスが変化する。
平滑筋は子宮や血管に限らず、胃や腸などの消化器官の動きにも関与する自律的な筋肉であり、蠕動運動を通して内容物や血流を調整する。その緊張や動きの乱れは、腹部の張りや痛み、便秘・下痢、月経痛などの症状に直結する。――
漢方薬のPMS治療は、平滑筋の緊張を和らげ、その運動を整えることが一つの重要な要素である。
西洋医学的には、ホルモン療法や抗うつ薬が中心となる。
排卵後のホルモン量や脳内神経伝達物質を調整することで、精神症状や身体症状の発現を抑える。
一方、漢方薬はホルモンや伝達物質などの分泌を直接操作するものではない。
子宮や血管、消化管など平滑筋で構成される臓器の動きや血流、全身の水分代謝を整えることで、痛みや腹部不快感、便通の乱れ、浮腫みなどを和らげ、症状改善に導く。
さらに、身体状態が整うことで自律神経も安定し、情緒も落ち着く。
一般的にPMSに用いられる漢方薬としては、加味逍遙散や当帰芍薬散などが知られるが、方剤の薬能を理解した上での選定が重要であり、一律の服用では十分な効果が得られない場合が多い。
本例では、胃腸の働きを賦活し血流を促すことを主軸に煎じ薬を調合した。
服用後、症状は徐々に軽快し、服用開始から2か月目以降には、ストレスを感じることなく月経を迎えられるようになった。