症例①
数年来、性器ヘルペスの再発を反復しているという相談で来局された症例である。
過労が続いた時期や精神的な緊張が長引いた後に症状が出やすく、発症のたびに日常生活に支障をきたしていた。
発症時には陰部に強い灼熱感と掻痒感が現れ、排尿時には痛みを伴うため、精神的負担も少なくなかった。
これまで医療機関では抗ウイルス薬の内服治療を受けており、急性期の症状はいったん軽減するものの、体調を崩すたびに再燃を繰り返す経過に、「その場しのぎの対応ではなく、体質そのものを見直したい」という思いを強くされていた。
相談時点でも、下腹部から陰部にかけて内側にこもるようなほてりを自覚しており、口渇や口中の苦味、些細なことが気にかかるといった精神面の変化もみられた。
尿は濃色で量が少ない傾向にあり、全身状態を総合的にみると、体内に余分な熱や湿がたまり、とくに下半身に集まりやすくなっている状態である。
これまでの経過を踏まえると、精神的ストレスを契機として症状が増悪する傾向があり、情緒の停滞を背景に自律神経や免疫のバランスが乱れ、その結果として炎症反応が高まり局所症状として顕在化しやすい体質と考えられた。
相談時は明らかな炎症期であったため、補益や調和を主とする対応よりも、局所の灼熱感や疼痛を軽減することを第一の目標として煎じ薬を調合した。
服用開始後、数日以内に陰部の灼熱感や排尿時の痛みは明らかに軽減し、発赤も次第に落ち着いていった。それに伴い、全身のほてり感や精神的な高ぶりも和らぎ、これまで寝つきが悪かった夜間の睡眠が改善したことを、ご本人も実感されていた。
一方で、体内の熱をしっかり冷ます性質をもつ方剤であるため、症状が落ち着いてきた後は、長期の服用による体力への影響や冷えにも目を向ける必要がある。
そのため、急性症状が十分に治まった段階で方剤内容を見直し、体調や季節、生活状況に応じて調整を行いながら、経過をみていく方針とした。
性器ヘルペスは、ウイルスの存在そのものだけでなく、体調や免疫バランス、さらには精神的ストレスの影響を強く受ける疾患である。
再発を過度に恐れて生活を制限するのではなく、体が発する微細な変化を手がかりに、早めに立て直していく姿勢が、結果として症状の安定につながる。
本症例は、症状を単なる局所の問題として捉えるのではなく、全身状態や生活背景を含めて丁寧に見直すことで、再発の頻度と程度を安定させることが可能であることを示唆する一例である。