症例①
これまで皮膚科で治療を継続してきたものの、十分な改善が得られずに相談にいらした患者さまの経過である。
物静かな印象の方であったが、話の中から、日頃から気を張って過ごされている様子が伝わってきた。
顔面の赤みと掻痒感を伴う皮膚炎が持続しており、これまで抗生物質の内服やステロイドを中心とした外用薬による治療を受けてきたものの、症状は一時的に軽快しても再燃を繰り返していた。
経過を詳しく確認すると、月経前になると症状が強まりやすく、月経周期も不安定な状態が続いているという。
精神的にも緊張しやすく、疲労感が抜けにくい状態が常態化しており、皮膚症状のみを独立した問題として捉えることは難しい印象だった。
相談時の状態では、症状が急激に悪化するというよりも、赤みが引きにくく、刺激に対して過敏な状態が慢性的に続いているように見受けられた。
掻痒感も完全には消失せず、日常生活において精神的な負担となっている。
また、洗顔時にはひりひりとした刺激感が頻繁に起こり、皮膚の反応性が高まっている様子がうかがえた。
目の前の炎症に対しては、清熱の要素を含む対応が必要ではあるが、このような背景から、漢方でいう「瘀血(おけつ)」の関与も考えられた。
瘀血とは単なる血液の停滞を指すものではなく、微小循環の不全や血管反応性の異常、組織修復の遅れなどを含んだ概念である。
本症例においても、末梢循環や自律神経機能のバランスが乱れることで、皮膚の血管拡張反応や炎症反応が持続しやすい状態に傾いている可能性が考えられた。
このような状態では、赤みや掻痒感といった局所症状のみを抑える対応では十分とは言えない。
そこで、局所の炎症を一時的に抑えることを目標とするのではなく、全身の血流や自律神経のバランスを整えながら、皮膚が炎症を起こしにくい状態へと立て直すことを意識し、煎じ薬を調合した。
体調や症状の変化を丁寧に観察しながら、経過をみていく方針とした。
服用を継続する中で、顔の赤みや掻痒感は徐々に落ち着きをみせ、洗顔時の刺激感も軽減していった。
さらに、月経周期にも安定がみられるようになり、「以前ほど気持ちが張りつめなくなった」との言葉が聞かれたことも印象的であった。
本症例は、顔の皮膚症状を単なる局所炎症として捉えるのではなく、月経周期や精神的緊張、末梢循環や自律神経機能といった全身の状態を含めて評価・対応することで、慢性皮膚炎の症状改善につながる可能性を示す一例である。