夜驚症
小学校1年生
本症例は3歳頃から症状がみられるようになり、鼻炎や体調不良など睡眠の質を妨げる要因が重なると、症状が出やすい傾向がみられた。
これまで総合病院で抑肝散エキス顆粒などを処方されたことがあるものの、明確な改善はみられなかった。
その後も小児科クリニックを受診したが、経過観察となっていた。
来局時にはほぼ毎晩のように中途覚醒があり、夜驚発作も頻繁にみられる状態であった。
睡眠が十分に取れないため日中の疲労感や倦怠感も目立ち、体力的にも精神的にも消耗している様子がうかがえた。
性格的には易怒性は目立たず、むしろ不安傾向がみられた。
夜驚症は幼児期から学童期にみられる睡眠障害の一つであり、睡眠中に突然の覚醒や強い恐怖反応を示すことが特徴とされる。
多くは成長とともに軽快するといわれているが、発作頻度が高い場合には睡眠の質が大きく低下し、日常生活にも影響を及ぼすことがある。
そこで本症例では、精神的緊張をゆるめながら自律神経のバランスを整える方剤を基礎とした煎じ薬を調合した。
骨格は桂枝湯とし、浮足立つような精神状態を鎮める生薬を加味する構成とした。
桂枝湯は身体の緊張をゆるめ、呼吸や循環のリズムを整えながら全身の調和を回復させる方剤であり、神経が過敏になりやすい小児では睡眠の安定にもつながることがある。
これに加えた竜骨・牡蛎は神経の昂ぶりを鎮め、精神の落ち着きを取り戻す方向へ働く生薬で、臨床的には、驚きやすい、眠りが浅い、夢が多いといった状態に用いることが多い。
竜骨や牡蛎を配すると浮ついたような神経の働きがゆっくりと静まり、気持ちが落ち着くべきところへ収まっていくような変化がみられる。
小児の夜驚症のように神経の昂ぶりが背景にある場合、このような作用が穏やかに働く。
自律神経の乱れに関わる症状では、エキス製剤と比べて煎じ薬の方が反応が明確に現れることが多く、本症例でも煎じ薬を提案した。
服用開始後およそ1週間で変化が現れ始め、夜驚発作の頻度と強さが徐々に軽減し、睡眠が安定してきた様子が確認できた。
その後は2週間ごとに状態を確認しながら、処方内容の調整を行った。
服用開始から1カ月後には夜間覚醒は2週間に1回程度まで減少し、以前みられていた日中の疲労感も軽減し、学校生活も元気に過ごしている。
今回の症例では、使用生薬の一つである「桂皮」への適合性が非常に高いタイプであった。
桂皮は体質との相性が比較的はっきり現れる生薬の一つであり、外観や体質的特徴から適合性が推測できる場合もある。
臨床においては、このような適合性を見極めることが治療効果に大きく関わる。
夜驚症は成長とともに自然軽快することも多いが、睡眠の質が大きく乱れている場合には体力や精神状態にも影響が及ぶ。
本症例のように体質に合った漢方薬によって睡眠が整うことで、日常生活の質が改善するケースもある。
現在も体質の安定を目的として服用を継続しており、落ち着いた状態を維持している。
「最近はぐっすり眠れる日が増えました」と、お母さまもほっとされたご様子である。