症例①
50代 女性
昨年、新型コロナウイルスに罹患し呼吸器症状が悪化したため、吸入ステロイド剤による治療を行った期間がある。吸入ステロイド剤との因果関係は不明であるが、口内炎を発症したことで口腔内の状態が気になるようになってしまったという。
その後、口内炎は軽快したが、今度は舌に異変を感じ始めた。とにかく灼熱感が強くて氷で冷やしたくなるような状態である。
病院では、器質的な異常は認められず、歯科医院でも同じ結果だった。
数カ月に渡り、原因の分からない症状に悩まされている・・・
舌痛症の特徴は、見た目に異常がないのに、舌に痛みや不快感が続くことである。
そのため周囲に理解されにくく、精神的疲労も強くなっていく。
舌痛症は「原発性」「症候性」と大きく2つに分けられる。
原発性は明確な原因が判明しないもので、自律神経の乱れ、神経伝達物質の異常などが関係していると考えられている。症状が慢性化しやすく、治療に時間がかかる場合が多い。
一方、症候性の場合は明確な原因があるとされるもので、義歯や被せ物による刺激、薬剤性の口腔内乾燥、糖尿病などから二次的に発生した症状を総じている。そのため、原因を取り除けば改善することが多く、原因症状の対処が治療とされる。
舌痛症の多くは「原発性」であり、様々な要因が複雑に絡み合って発症することが多く治療が困難だと言われている。
その症状は「熱く焼けるようにヒリヒリする」「部分的にチクチクする」「膜を張ったようで自身の舌でないように感じる」など様々である。
症状の出る時間帯も様々で、食事や会話中は全く気にならないのに一人の時間になると症状が出始めるなどといった例も少なくない。
西洋学的な治療では、抗うつ剤や抗不安薬による薬物療法が中心となる。
抗うつ剤や抗不安薬による治療については、一定の効果がみられる場合もあるが治療に伴う副作用や依存性などが懸念される。
東洋医学では、舌の症状を舌だけの症状とは考えない。
舌に限らず、体質を見定めながら原因を探り、見合った方剤を選定していく。
灼熱感の治療において、漢方では清熱以外に血流を促すことや滋潤することで不快な症状を取り去る方法がある。更に、胃部周囲の緊張を取り除くことで、精神面の安定も図っていく。
現在、不快な症状はあるものの当初感じていた灼熱感は完全に消失している。
舌痛症の治療は長期に渡ることが多いが、毎日欠かさず煎じ薬を服用してくださっている。
お力になれるよう尽力したい。