症例①
80代
7~8年ほど前から掻痒症状に悩まされている。
抗アレルギー剤を中心に治療をしてきたが、一向に改善の兆しがない。
症状は突発的で、夜間に掻痒感で目が覚めることも珍しくない。
掻痒部位に発疹はなく、見かけ上の異変はみられない。
現在、患部は背面下部に限定的である。
老人性貧血の治療中で、加齢に伴う赤血球造血能の低下のため定期的な輸血を行っている。
他に、心臓疾患の持病があり循環器系の処方薬を服用中。
痒みに対するストレスは非常に強く、精神的疲労が見てとれる・・・
~皮膚掻痒症は「明確な発疹を認めないにも関わらず痒みを訴える疾患」と定義されている。
一般に腎不全、肝障害、血液疾患など種々の基礎疾患に伴うことも多く、まずは原因となる疾患の有無を確認する必要がある。
長期にわたり、強い痒みによる精神的苦痛は非常に大きく、睡眠や就業など日常生活に支障をきたしQOL(生活の質)を著しく低下させる。
西洋学的には、抗ヒスタミン薬や皮膚保湿の外用薬を中心とした治療が基本的だ。
肝臓、腎臓の疾患に起因する場合にはナルフラフィンなどの薬剤が用いられる場合もある。
痒みの発症機序は未だ十分に解明されていないため、思うような改善に至らないケースが多い。~
背面を中心にみせていただくことにした。
患部が背面ということもあり、手の届く範囲が限られている。爪で掻いた跡が薄っすらと残るものの、発疹は見当たらない。
外出することは滅多にないということもあり、肌は青白く貧血性の血行の悪さと乾燥が目立つ。
患部が赤みを帯び、熱感の強い「血熱」という症状がある。黄連解毒湯などの方剤を中心に用いる場合が多いが、相反する病態に「血燥」と言われる症状がある。
皮膚枯燥があり、分泌物が少ない。患部に勢いはなく、赤みも乏しく熱感がない。
体が乾燥に傾くことで、熱がこもり血流循環が悪くなる状態である。
血流循環が滞ると皮膚に栄養が行き渡らなくなり、皮脂や汗の分泌低下が生じ皮膚の乾燥をもたらす。
痒みを清熱剤で対処するのではなく、滋潤して治すことに主眼を置き煎じ薬を選定した。
2週間後、患者さまは痒みのストレスから解放されている。10年近く悩まされた症状だが、全くと言ってよい程までに軽快していた。
初回にはなかった微笑む姿を見ることが出来た。
皮膚掻痒症に対して漢方薬が著効を示した一例である。