お寺の住職をされており、読経や寺務などで長時間座って過ごすことが多く、以前から慢性的な痔症状に悩まされていた。
特に冬場になると悪化しやすく、肛門部の違和感や不快感が強くなるという。
排便時には出血を伴うことがあり、痛みが強くなる時期もみられた。
詳しく状態を伺うと、典型的な内痔核(ないじかく)の状態と考えられた。
また、水気を感じさせる色白傾向で、末梢循環の弱さをうかがわせる体質でもあった。
冬場に悪化しやすいことからも、局所血流低下の影響が大きく関与しているとみられた。
さらに、職業柄、長時間座位による骨盤内静脈還流の低下も加わることで、肛門部の循環不全が慢性的に持続している。
便秘体質ではないものの、長時間同じ姿勢を続ける生活背景から、肛門括約筋の過緊張も考慮する必要を感じた。
そのため今回は、炎症を強く抑え込む方向よりも、停滞した循環や水分代謝を整えながら、回復しやすい状態を整えていく方向を重視した。
服用を開始してから約1カ月後には、排便時の違和感や、夕方以降に感じていた肛門部の不快感が軽くなっていった。
同時に、以前からみられていた浮腫傾向も軽減し、長時間座った後の悪化も以前ほど感じにくくなっていった。
その後も、再発しにくい状態を目指し、体質面を含めた調整を継続している。
痔核とはどのような状態か
痔核(じかく)は、肛門周囲の静脈に負担がかかり、血流停滞やうっ血(血液の流れが滞った状態)が慢性的に続くことで生じると考えられている。特に、便秘や長時間のいきみ、長時間座位などによって肛門周囲の静脈に負担がかかることで悪化しやすい。
こうした静脈の拡張や腫れによって、肛門部にいぼ状のふくらみが形成されることから、一般には「いぼ痔」と呼ばれている。
痔には、この「痔核(いぼ痔)」のほか、肛門上皮が裂ける「裂肛(切れ痔)」、肛門周囲の感染によって膿の通り道が形成される「痔瘻(じろう)」などがある。
最も多いのが痔核で、肛門の内側にできる「内痔核」と、外側にできる「外痔核」に分けられる。
内痔核では出血や脱出感が主体となることが多く、外痔核では腫れや痛みが強く出やすい。
特に外痔核では、血栓形成によって急激な痛みを生じ、外科的処置を必要とする場合もある
一般的な痔疾患の治療
痔疾患の治療では、まず排便コントロールや生活習慣の改善が基本となる。便秘や過度のいきみは肛門部への負担となり、局所静脈のうっ血や炎症を悪化させやすいため、日頃の食事や排便習慣を整えることが大切になる。
薬物治療では、痛みやかゆみを抑える局所麻酔成分、腫れや炎症を鎮める抗炎症成分などを含む外用薬が用いられる。
代表的なものに、ボラギノール、ポステリザン、強力ポステリザン、ネリプロクトなどがある。
また、内服薬では、静脈循環の改善や腫脹軽減を目的として、ヘモナーゼなどが用いられる。
ただ、同じ「痔」であっても、冷えの影響を強く受ける方、長時間座位による骨盤内うっ血が目立つ方、強い緊張によって肛門周囲が硬くなっている方など、その背景はさまざまである。
そのため、局所処置だけでは改善が安定しないケースでは、全身状態や循環状態を含めた調整が必要になることもある。
漢方治療の考え方
漢方では、こうした慢性的なうっ血や循環停滞に対して、血流改善を目標に方針を組み立てていく。冷えを伴う体質や、寒冷時に症状が悪化しやすい場合には、当帰や川芎などを中心とした処方を用い、末梢循環の改善を図る。
また、慢性的な経過のなかで組織修復が追いつかなくなっているような症例では、人参や黄耆などの回復力を補う処方で対応することもある。
一方、うっ血や血流停滞が強い場合には、牡丹皮や桃仁などを内包する駆瘀血剤を用いて、局所循環や組織修復環境を整えていく。
逆に、腫れや炎症、熱感が前面に出ている場合には、黄連解毒湯類などの清熱剤を中心に初期対応を行う。
そして、過敏性腸症候群(かびんせいちょうしょうこうぐん)など、自律神経の不調が背景にある場合には、局所を含めた過緊張状態をやわらげることも重要となる。