尋常性ざ瘡(にきび)
40代
額やあごを中心に皮疹が出現し、胸部や上背部にも同様の症状がみられる。良くなったり悪くなったりを長年繰り返していた。
問診を進める中で、月経周期との関連がはっきりしていると分かった。
月経前から月経期間中にかけて炎症が強くなり、新しい皮疹が増える傾向がある。
このような月経周期と連動した増悪は臨床でもよくみられ、黄体期におけるホルモン変動が皮脂分泌や炎症反応に影響していることが知られている。
特にあご周囲を含むフェイスラインの皮疹はホルモンの影響を受けやすい部位とされており、本症例でも分布と経過からホルモン変動の関与がうかがえた。
これまで外用薬や内服薬による治療歴はあるものの、改善しても再発を繰り返す経過であった。
尋常性ざ瘡の標準治療としては、ディフェリンゲルやベピオゲルなどの外用薬が基本となり、必要に応じてダラシン外用や、ビブラマイシン・ミノマイシンなどの抗菌薬内服が併用される。
これらは毛包の角化異常を整え、皮脂の滞りを改善するとともに、抗菌・抗炎症作用を通じて炎症を抑える治療であり、ガイドラインにおいても基本治療として位置付けられている。
一方で、本症例のように長期間にわたり再発を繰り返すケースでは、皮膚局所の治療のみではコントロールが難しい。
ホルモン変動の影響を受けにくい状態へ整えながら炎症を鎮め、さらに慢性化した皮疹に関与する微小循環の改善も含めて対応していく必要がある。
慢性化した皮疹では局所の微小循環の低下が関与し、炎症の遷延や治癒遅延につながる。
※微小循環:毛細血管レベルでの血流のことで、酸素や栄養の供給、老廃物の排出に関わる。低下すると炎症が長引き、皮膚の回復が遅れやすくなる。
さらに、経過が長く続く症例では、面皰から炎症性皮疹、さらに硬結を伴う皮疹までさまざまな段階のざ瘡が混在している。
こうしたいわゆる「根のある」皮疹では、炎症が長く持続することで局所の血流が低下し、硬結として残存しやすい状態となる。このような皮疹に対しては、炎症を鎮めるだけでは改善しにくく、滞った血流を動かしながら、こもった状態をほどいていくことを目的とした処方が必要となるケースも多い。
煎じ薬の服用を開始後、2週間ほどで新規皮疹の出現頻度に変化がみられ、徐々に症状の軽減を実感されるようになった。
特に炎症性皮疹の出現が減少し、赤みの強い皮疹が落ち着き始めた。
約1カ月後には炎症性皮疹の明らかな減少が確認され、これまで悪化していた月経期間中でも症状の増悪はみられなくなった。
また、長く残存していた硬結を伴う皮疹についても、徐々に硬さが和らぎ、触れた際の違和感や目立ちも気にならなくなっていった。
その後も皮膚状態は安定して推移し、現在は皮膚全体が落ち着いた状態を維持しており、再燃もみられていない。
とくに月経周期と関連し慢性化した症例では、ホルモン変動や皮脂分泌に加えて、微小循環不良の要因が関与していることが多い。
本症例ではこれらに対して多角的に介入することで、炎症の鎮静化と再発の抑制が得られ、安定した皮膚状態の維持につながっている。
なお、思春期にみられる尋常性ざ瘡では、炎症性皮疹が前面に出ながら、皮脂分泌の亢進などが主たる要因となることが多く、本症例のようなホルモン周期や慢性炎症の影響が主体となるケースとは、治療の組み立てが異なる場合もある。