症例①
50代
1年程前に発症し、メルカゾールの服用を継続している。
動悸や重い疲労感が続いており、漢方薬で少しでも良くならないかと相談にいらした。
バセドウ病は甲状腺機能亢進症に分類される自己免疫疾患の一種である。
自己免疫疾患は、免疫系の誤作動により免疫システムが破綻することで発症するが、その原因については、未だに不明である。
バセドウ病における身体症状は、自己抗体によって甲状腺が刺激される結果、甲状腺ホルモンが過剰に作られることで引き起こされる。
甲状腺ホルモンは、新陳代謝を促すホルモンであり、過剰になることで常に体を動かしているような状態になり、「疲れやすい」「脈が速くなり動悸がする」「汗をかきやすくなる」「暑がりになる」「手が細かく振るえる」「食欲が増して常に空腹感を感じる」「体重が減り続ける」「下痢しやすい」「精神的に不安定になる」など様々な症状が現れる。さらに、眼球がとび出して見える「甲状腺眼症」を発症することも少なくない。
このように、代謝が非常に高まり、心臓に負担がかかることで心不全や狭心症などの心疾患も起きやすくなる。
そのため、治療を放置すると心臓の合併症を起こすリスクが高まるため注意が必要である。
治療は、過剰に分泌された甲状腺ホルモンを正常値に戻すことを目標にしており、主な治療法としては、薬物療法、アイソトープ療法、手術療法がある。
寛解(症状がなくなる状態)は可能であるが、完治(完全に再発の可能性がゼロになる)とまでは言い切れず、病気の性質上、数年後に再発することもあるため、治療後も定期的な検査が必要になる。
漢方薬による治療は基本的に西洋学的治療の併用療法として位置付けられるが、西洋学的治療を受けても身体症状が続く場合には、漢方薬が有効であることは少なくない。
バセドウ病では、新陳代謝の異常亢進が長期間に及んだことで、慢性的に消耗している状態であり、多くの場合、補剤が中心になる。滋潤、鎮静することで、全身の症状を整えていく。
ご相談にいらした患者さまも例外ではなく、心悸亢進し、燥きが強く、疲労しやすい状態が続いていた。
夜間に手足の煩熱を自覚することもあり、地黄や阿膠などで血燥に対応する必要もあった。
煎じ薬を調合し、様子をみていただいた。
開始して1カ月経つ頃には動悸はほとんど気にならない程度まで軽減し、夕方以降に感じていた疲労感も落ち着き始めていた。
症状が波打つこともあったが、現在は状態が安定している。
深い寛解状態を目標に煎じ薬を継続中である。