チック症とは
チック症とは、本人の意思とは関係なく、まばたき・首振り・咳払いなどの動きや発声が、突発的かつ反復的にあらわれる状態を指します。医学的には「突発的・急速・反復性・非律動性の運動または発声」と定義され、運動チックと音声チックに分類されます。多くは幼児期から学童期(4~8歳頃)に発症し、経過の中で自然に軽快していくケースが多いとされています。原因としては、脳の神経回路や神経伝達物質の関与が指摘されており、不安や緊張、疲労、環境の変化などによって症状が強くなる傾向があります。チック症は「癖」や「性格」の問題ではなく、本人の意思だけで抑えられるものではありません。むしろ、無理に抑えようとすることで強く出てしまうこともあります。
治療は症状の程度に応じて判断され、軽症の場合は環境を整え、過度に意識させないことが基本となります。必要に応じて行動療法や薬物療法が検討されますが、すべてに積極的な治療が必要というわけではありません。
チック症は、単に神経の問題としてだけでなく、身体全体の状態として捉える視点も重要です。睡眠や疲労、緊張状態といった要因の影響を受けやすく、体調の変化に応じて症状の出方が変わることは臨床的にもよく経験されます。
体調が整うことで、結果として症状が自然と落ち着いていくケースも少なくありません。そのため、症状だけに目を向けるのではなく、体調や生活リズムを含めて整えていくことが、安定した改善につながると考えられます。
チック症と漢方治療
チック症に対する治療は、症状の程度や日常生活への影響を踏まえて判断されます。強い支障がある場合には行動療法や薬物療法が選択されますが、実際には「そこまでではないが気になる」「体調によって波がある」といった段階でご相談を受けることが多いのが実情です。西洋医学における薬物療法は、主に症状そのものを抑えることを目的とします。
一方で漢方では、症状の背景にある体調の状態に目を向け、全体を整えることで結果として症状の安定を図るという考え方をとります。さらに、竜骨や牡蛎などを用いる処方では、過敏になった神経の働きを落ち着かせる方向で中枢に直接的に作用する側面も併せ持っており、この点は漢方治療の中でも重要な特徴の一つです。
また、チック症は単なる局所的な症状としてではなく、「その時の身体全体の状態が表に出ている現象」として捉える必要があります。緊張状態の持続や自律神経の乱れ、睡眠の質の低下、疲労の蓄積といった背景が関与しているケースは非常に多く、これらを整えずに症状だけを見ても、本質的な改善にはつながりにくいと考えています。
治療では、精神的な緊張をゆるめる、過敏な反応を落ち着かせる、睡眠の質を整えるといった方向で処方を組み立てていきます。体質や経過に応じて調整を重ねることで、無理に抑え込むのではなく、結果として症状が自然に落ち着いていく状態を目指します。
チック症は経過の中で変化していくことが多い状態です。そのため、症状そのものに対処するだけでなく、「なぜ今この症状が出ているのか」という背景を丁寧に捉えることが、安定した改善につながると考えています。
チック症の漢方症例
症例|8才 音声チック4か月ほど前より、症状が出現した。
発症当初は鼻を鳴らすような動作であったが、現在は喉鳴りへと変化している。
喉鳴りはかなり強く、まばたきも若干不規則で過敏な様子がうかがえる。
また、臍部の動悸を自覚し、緊張すると気分不良を伴うこともあるという。
チック症は、頭を動かす、小刻みな咳、詰まった咳、鼻や喉の鳴動、肩をすくめる、まばたき、顔を歪めるなど、多様な症状を呈する。共通するのは、これらの動作が本人の意思とは無関係に現れることである。体質や環境などが誘因となり、何らかの契機で発症することが多い。
また、チック症は内向的なストレス発散の側面もあり、むやみに指摘すると症状を悪化させる可能性があるため、周囲の理解が重要である。
漢方治療では、過剰な緊張状態の緩和を目標に進める。
起立性調節障害と同様、エキス剤(粉薬)と煎じ薬では効果に差があるため、煎じ薬を選定した。
調合前には、患者さまに生薬の香りを確かめてもらい、桂皮など独特の風味に抵抗がないかを毎回確認している。
これは、薬の適正を確かめるためだけでなく、改善には一定期間を要することから、丁寧に行う必要のある手順である。
治療開始から2週間で、わずかながら改善の兆しがみられた。
方剤を調整し、さらに2週間分を服用。
治療開始4週間後の来局時には、明らかな改善がみられ、喉鳴りは自覚されなくなった。
お母様も安堵されたご様子で、患者さま本人も無邪気な笑顔を取り戻した。
現在は、減薬・中止に向けて慎重に調整中である。
チック症に用いられる漢方
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)紫勺六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
香蘇散(こうそさん)
苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)
抑肝散加減方(よくかんさんかげんほう)
など