西洋薬の大半は化学合成された単一成分の物質ですが、漢方薬は複数の天然由来の生薬から構成されており、その姿は対照的です。
また、それぞれの吸収経路も異なります。一般的に西洋薬は小腸の上皮細胞から吸収されますが、漢方薬は小腸に限らず大腸から吸収されることが分かっています。これは、漢方薬の重要な有効成分である「配糖体」に秘密があります。配糖体は構造中に糖鎖を有するため、消化酵素ではほとんど代謝(分解)されず、配糖体のままでは腸管から吸収されません。つまり、漢方薬の有効成分の多くは、そのままでは効果を発揮できないのです。
漢方薬の吸収に重要な働きをするのが「腸内細菌」です。腸内細菌の多くは配糖体の糖鎖を切断する酵素を有しており、配糖体を分解します。分解された成分は、効率良く吸収されることで薬効を発現します。
このことから、腸内細菌は漢方薬の有効性にとても重要な役割を担っていると考えられます。同じ漢方薬であっても、人により効果の現れ方が異なるのは、配糖体を分解する腸内細菌の活動性(質)や存在の有無(量)が異なるためとも考えられます。
腸には吸収のほか、免疫調整など多くの重要な働きを持ち全身の恒常性に関係しています。この腸の働きを正常に保つためにも腸内細菌はとても大切な存在と考えられます。腸内には100兆個ともいわれる多くの腸内細菌が存在します。その多くの腸内細菌が、種類ごとに腸壁に張り付いて存在しており、腸内フローラと呼ばれる、ある種の生態系のような環境を形成しています。この腸内フローラは3歳までに決まると言われており、優れた腸内フローラを獲得するためには、3歳までの食事や生活習慣、環境が大切ということになります。食品添加物は腸内細菌の増殖を抑えたり、抗生物質は腸内フローラを乱してしまうため、特にこの時期には注意する必要があります。
「傷寒論」と並び漢方医学の聖典とされる「素問」の五行色体表では、肺と大腸は表裏の関係にあり、秋の鼻炎症状とも関連が示されています。五行色体表は多くの物事を経験則によって五行に割り振ったものであり、遥か二千年以上前から、全身と腸には深い繋がりがあると考えられていたのです。