ご予約

ご予約

ブログ

水の行方 ― 五苓散はむくみの漢方?

2026.08.17 漢方

暑い日が続いています。「こまめに水分・塩分を補給しましょう」。
この時期になると、よく聞く言葉です。もちろん大切なことですが、水は飲めばそれで終わり、というわけでもありません。

飲んだ水は、そのあとどうなるのでしょうか。この「水の行方」を考えてみると、五苓散という処方の本来の目標が見えてきます。

その手がかりは、『傷寒論』の一節にあります。

「太陽病、発汗後、大汗出、胃中乾、煩躁不得眠、欲得飲水者、少少与飲之、令胃気和則愈。若脈浮、小便不利、微熱消渇者、五苓散主之。」

急性熱性病(高熱を伴う感染症など)の治療で大量に汗をかき、喉が渇き、水を飲みたがっている。そんな時には、まず少しずつ水を与えればよい、と書かれています。

考えてみれば当たり前のことです。汗をかいて水分を失い、のどが渇いている。ならば水を飲めばいい。それで回復するのであれば、薬を使う必要もありません。

ところが、後半に「小便不利、微熱消渇者、五苓散主之」と続きます。

水を与えるだけではうまくいかず、尿が出にくく、なお渇きが続く。そういう時には五苓散です、と説明されています。

なぜ五苓散を示す前に、わざわざ「少しずつ水を与えれば治る」という当然のことが書かれているのでしょうか。

そもそも『傷寒論』には、熱性疾患の経過のなかで身体がどう変化し、その時々にどう治療するかが記されています。発熱が続くなか、当然、胃腸も普段通りとはいきません。そんな中で、水を飲んでも十分に取り込めない。重い感染症に罹っている状況で、水分をうまく取り込めないことは、生死にかかわる大きな問題です。

五苓散は現在、「むくみに使う漢方薬」として広く知られています。もちろん、実際にむくみに用いることもあります。しかし『傷寒論』の記載からみえてくるのは、単に「余分な水を尿として出す」ということではありません。

水を飲ませても状態が改善せず、尿も十分に出ない。つまり問題になっているのは、水分の摂取ではなく、入ってきた水を身体の中でどう扱うかということです。五苓散は、水が身体に取り込まれ、排泄されるまでの過程における滞りを整え、正常な状態へ戻していく処方と考えることができます。

水分補給というと、「何を飲むか」「どのくらい飲むか」に目が向きがちです。もちろん、それは大切です。ただ、いくら水を飲んでも、その水を身体の中へ取り込めなければ十分な水分補給にはなりません。飲んだ水を胃で受け止め、腸管へ送り、吸収し、必要なところへ届け、不要なものは排泄する。水分補給は、こうした一連の働きまで含めて考える必要があります。

だからこそ、暑い時期には水分だけでなく、胃腸の状態にも目を向けておきたいところです。暑さで食欲が落ちても、食事そのものを疎かにしないことが大切です。食事を摂れば、消化や吸収に伴って胃腸への血流も増えます。胃腸もまた、使うことでその働きが保たれています。

暑さを避け、水分・塩分を適切に補給することが熱中症対策の基本です。ただ、毎年のように暑さで体調を崩す方では、こうした「水を取り込む側」の状態にも目を向けてみてください。

まだまだ暑い日は続きそうです。水分補給と一緒に、胃腸のことも気にかけてみてください。

PAGE TOPPAGE TOP